いわゆる元徴用工をめぐる問題で、政府は日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置を韓国政府に要請した。昨年10月に日本企業に賠償を命じた韓国最高裁(大法院)の判決は明らかに協定違反だが、韓国側は「司法判断に介入できない」(康京和外相)と繰り返すだけだ。
「司法に介入できぬ」は詭弁だ
文在寅政権は最高裁長官(大法院長)に人権派とされる金命洙地裁の所長を抜擢し、ソウル地検は右派とされる梁承泰前長官を元徴用工訴訟の判決を遅らせた職権乱用罪で逮捕・起訴している。
人事や検察を使って司法に介入しておいて、司法の判断に介入できないというのは詭弁だろう。文政権の目的が「親日派」を排除する「親日残滓の清算」にあることは明らかだ。
韓国で親日派とは「今の日本に理解を示す勢力」ではなく、「かつての日本統治下で日本の支配に協力した勢力」の意味だという。文政権は「排除しようとしているのは過去の残滓であり、今の日韓関係を壊すつもりはない」というが、過去の清算が現在や未来に影響しないはずはない。
この問題は「深層NEWS」でも再三にわたって取り上げ、元駐韓大使の武藤英二さんは「韓国は国益を考えるべきだ」と警告している。文大統領も日韓関係の多少の悪化は覚悟しているのだろうが、「自ら手を下さなければ日本側の批判はかわせる」と思っているようにみえる。
さらに見逃せないのは、「清算」の過程で韓国側が、過去の歴史を書き替えていることだ。その例は枚挙にいとまがない。
韓国国会議長の「天皇謝罪要求」
韓国国会の文喜相議長が米国メディアの取材に「戦争犯罪の主犯の息子がおばあさん(元慰安婦)の手を取り、心より申し訳ないと言えば(慰安婦)問題は解消されるだろう」と発言した。批判を浴びると、「日本側は数十回謝ったと言っているが、私が見るところ、そういったようなことはない」と反論した。
文議長は2つの重大な歴史の歪曲をしている。ひとつは昭和天皇(1901~89)を戦争犯罪の主犯としていること。もうひとつは「日本が慰安婦問題で誠意ある謝罪をしていない」と断言していることだ。
さすがにまずいと思ったか、文議長は昭和天皇を戦争犯罪の主犯としたことについては、「真意が伝わっていない」と事実上発言を修正している(謝罪はしていないが)。だが、「誠意ある謝罪がなかった」という発言は撤回も修正もしていない。
日本政府は何度も謝罪している
慰安婦問題について日本は真剣に解決策を模索し、何度も謝罪してきた。平成5年(1993年)に「河野談話」、平成7年(1995年)には「村山談話」が出され、アジア女性基金には50億円近くが拠出された。
基金から元慰安婦に「償い金」を支払う際は歴代首相が直筆で署名した反省と謝罪の手紙が渡された。それでも問題が解決せず、日韓両政府がまとめたのが2015年の「慰安婦合意」だった。文議長はこの経緯の一切を消去している。
文議長は廬武鉉政権の大統領秘書室長を務めているが、この時首席秘書官を務めていたのが文大統領だった。2人の仲は必ずしもよくなかったようだが、盟友だったことは間違いない。文議長は文大統領の後押しがなければ三権の長に就くことはできなかった。
3・1運動100年の大統領演説
大正8年(1919年)3月1日、日本統治下の朝鮮で、宗教指導者らが日本からの「独立宣言」を読み上げ、「独立万歳」デモが多くの市民が参加し、朝鮮半島全体に拡がった。一部は暴徒化し、朝鮮総督府は軍隊も投入して鎮圧したため、多数の死者が出た。
その「3・1独立運動」から100年目を迎えた記念式典の演説で、文大統領は「抗日デモで約7500人の朝鮮人が殺害された」と発言した。この数字は民族運動家の朴殷植(1859〜1925)が『韓国独立運動之血史』の中で記した7509人を引用したとみられる。
だが、当時上海に亡命していた朴の情報は伝聞によるもので、自ら「真相は分からないが」と注釈をつけている。朝鮮総督府が発表した犠牲者数は553人、韓国の国史編さん委員会が3年にわたって調査し、今年発表した犠牲者数も725~934人で、7509人とは大きく異なる。
この暴動では日本人も襲われ、大きな被害に遭っている。朝鮮総督府は犠牲者を出したことに衝撃を受けて武断的な統治を改めており、多くの歴史研究者が「3・1運動」は世界的な反帝国主義、民族自決運動の高まりに大きな影響を与えたと評価している。
少ない数字を使うべきとは言わないが、研究者でも意見が分かれる未確定の数字を断定的に使うことはかえって反発を招き、「3・1運動」の評価を貶める言説に火をつけるだけだ。
「日本海」呼称問題の矛盾
韓国外交省は、来日したアメリカのトランプ大統領が在日米軍横須賀基地で第7艦隊の将兵らに演説した際、「日本海(the Sea of Japan)」と述べたことに対し、「(韓国政府としては)東海(East Sea)と併記しなければならないとの立場だ」と苦言を呈した。
韓国政府は平成4年(1992年)から日本海を東海と呼ぶよう求め続けており、世界の海路標記を決める国際水路機関(IHO)でも問題を提起している。ニューヨークの国連本部で4月末に開かれた地名専門家グループの会合でも、日本海の呼称に「東海」と併記するよう改めて主張している。
韓国側は「日本海という呼称が一般的になったのは、20世紀初頭の日本の拡張主義・植民地主義に起因する」としてきた。しかし、これは史実ではない。日本海の呼称は江戸時代初期には国際的に定着している。
何よりも韓国の政府機関(国土地理情報院)が、古地図を調査して「日本海の表記が急増したのは1830年以後だ」という結論を出している。
だが、それでも韓国政府は主張を取り下げず、4月の国連の会合で「東海ソサエティー」なる団体のセミナーへの参加を呼びかける資料を配っている。
常軌を逸した戦犯ステッカー
韓国の京畿道(道は日本の都道府県にあたる)議会に、「日本の戦犯企業が生産した製品に『戦犯ステッカー』の貼付を義務づける条例案」が上程された。
学校で使うプロジェクターやコピー機などの備品のうち「日本植民地時代の戦犯企業が生産した製品」に「戦犯企業の製品であるステッカーの貼付を義務づける」という常軌を逸した内容だった。
さすがに韓国国内からも「教育を政治扇動に利用するな」「行き過ぎた民族主義だ」といった批判が殺到し、京畿道教育庁の李在禎教育監は、「韓日外交に大きな影響を与えかねない。まず政府が立場を決めなければならない」と条例案の採択に反対した。
ところが韓国政府は「政府として具体的な評価をすることは適切ではない。自治体議会の審議過程で慎重に検討される必要がある」(康京和外相)と、傍観する姿勢をとった。
条例案では「戦犯企業」は「韓国政府が植民地時代に収奪や徴用を行ったと発表した日本企業のうち、現存する284社を指す」としていた。
政府の認定利用を拒めたはず
「政府の認定を条例案に借用すべきでない」と主張することはできたはずなのに、「地方自治には介入できない」という理由で、日本企業に「戦犯」のレッテルを貼ることを止めなかったわけだ。本当にこれらの企業を「戦犯」と呼ぶべきかどうかについては、日韓の間に議論があることは言うまでもない。
結局、条例案は発議した黄大虎議員自身が「検討過程が十分ではなかった」として上程を取り下げ、この時は採択には至らなかった。
黄議員は2018年6月の地方選挙で政権与党の「共に民主党」候補として出馬し、初当選したばかり。文政権の「親日残滓の清算」に乗った与党の地方議員の売名行為はほかにも横行している。
◇
3・1運動の演説は大統領府のライターが書いている。日本海呼称問題では得体の知れない市民団体がアメリカで動いている。「戦犯企業ステッカー」は1年生の与党議員が暴走している。元徴用工の判決を出した最高裁の長官は大統領に抜擢され、慰安婦問題で天皇の謝罪を求めた国会議長は大統領の盟友だ。
こうした「文在寅シンパ」が大統領の意向を受け、時には忖度して歴史をねじ曲げてくれるから、文大統領は日本からの批判にも馬耳東風でいられるのだ。
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そのことが最もよくわかるのが、韓国が2018年10月に済州島の沖合で開いた国際観艦式での韓国政府と海軍の対応だ。掲げられた3つの旗が物語る韓国側の意図を、それぞれの旗にまつわる歴史とともに、引き続き考えたい。
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