今につながる日本史+α

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読売新聞編集委員  丸山淳一

選挙の後に不要論…参議院はなぜ必要とされたのか

 参議院議員選挙は、当初の予想通り与党の大勝という結果となった。選挙戦の終盤戦で安倍元首相が狙撃され死亡するという予期せぬ事件が起きたが、選挙結果には大きな影響を与えなかったようだ。

 当選した議員の顔ぶれを見て、SNSには「参議院不要論」を説く人が増えているのは、やや不思議な気がする。当選した人が議員にふさわしいかどうか、議論するのは構わないが、当選者は不正をしたわけではない。筆者は参議院不要論を否定する気はないが、良くも悪くもこれが民意である以上、「こんな人が当選するなら参議院はいらない」というのは筋違いだろう。 

 参議院が「衆議院カーボンコピー」とやゆされ、存在意義を問う声が出ていたのは最近のことではない。なのに参院各会派でつくる参院改革協議会は今年6月、改革を選挙後に先送りしている。今度こそ改革議論に真剣に向き合わなければ、参議院不要論はますます広がるだろう。

読売新聞オンラインのコラム本文

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 貴族院に代わって戦後に設けられた参議院は、なぜ必要とされたのか。そもそも、なぜ「参議院」なのか。議員たちが「議論に参加する」だけえなく、真剣に改革に向き合っているかどうかを確認するためには、参議院誕生の歴史を知っておくべきだ。

「議論に参加する」から参議院

 なぜ参議院が必要なのか。この問いに対する答えは、よく「衆議」「参議」の言葉の意味から説明される。「大勢の人(衆)が集まって議論する」衆議に対し、参議は文字通り「議論に参加する」こと。大衆の代表が議論する衆議院とは異なる目線で議論に参加し、それだけでなく衆議院の行き過ぎや見落としをチェックするから参議院。国民に代わって議論する「代議士」が衆議院議員だけの別名なのも、参議院が「良識の府」「再考の府」と呼ばれるのも、このためだ。

 日本政府の憲法改正作業のなかで初めて「参議院」の名前があがったのは、昭和20年(1945年)12月、幣原喜重郎(1872~1951)首相が憲法学者松本まつもと烝治じょうじ (1877~1954)を委員長として発足した憲法問題調査委員会(松本委員会)での議論の場だった。委員会に出された大日本帝国憲法の改正試案では「公議院」「元老院」「審議院」など、実にさまざまな名前が提案され、「参議院」はそのうちのひとつだった。

近衛の幻の改憲案では「特議院」

 松本は「参議院」案が出たわずか2日後に「参議院あたりが無難と言うべきか」(第7回調査会議事録)という理由で「参議院」を採用した。結論を急いだのは、近衛文麿内大臣府御用掛として松本委員会に先んじて憲法改正作業を進めていたことも一因のようだ。

 近衛の案は「特議院」だったが、GHQ(連合国軍総司令部)は近衛の戦争責任を追求すべきだという声に押され、近衛を切り捨てている。松本委員会は近衛案に代わる改憲案を早急にまとめる必要に迫られていた。

 

松本憲法担当相(左)と近衛元首相(右)(国立国会図書館蔵)

 

 近衛はこの後服毒自殺し、松本はGHQから一院制憲法草案を突き付けられることになる。GHQは日本に第二院は不要と考えていた。

 GHQ草案の一院制を見た松本は「アメリカはチェック・アンド・バランスという議会制民主主義の基本すら知らんか」と嘆いたという。憲法学者として、「先進国は二院制」という常識に縛られていたのかも知れないが、GHQはフランス革命の理論的指導者シェイエスの「第二院は何の役に立つのか。もしそれが第一院に一致するなら無用であり、もしそれに反対するなら有害である」という言葉を知っていたのかもしれない。

 GHQの提案は第二院の人選を民選とするための駆け引き材料で、日本側の懇請で第二院は復活するが、参議院の構成はほぼGHQの意向通りとなった。

「特別な人」を「特別な方法で」

 松本と近衛の駆け引きにGHQがからんだ経緯はコラム本文をお読みいただきたいが、最後に「特議院」の名前の由来を紹介しておく。近衛とともに改憲作業にあたった佐々木惣一(1878~1965)の私案によると、「特議院」の名前の由来は、平静に国務を考慮することに困難を感じることが少ない立場にある「特別な人」を「特別な方法」で選任するから。描く青写真はほぼ同じとしても、「無難だから」という理由だけで選ばれた参議院より、第二院の持つ意味はずっとわかりやすい。

 もし「特議院」の名前が採用されていたら、有権者は内外の変革期に冷静に国政を議論できる「特別な人」を選ぶべく、また候補者は、「特別な人」と呼ばれるにふさわしいかどうか、今以上に真剣に考えていたかもしれない。

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