今につながる日本史+α

今につながる日本史+α

読売新聞編集委員  丸山淳一

「豊島」園の跡地に「練馬」城址公園が開園…なぜ?

 東京都練馬区の遊園地「としまえん」の跡地に東京都が整備を進めていた「練馬城址じょうし公園」が開園した。2020年に閉園した「としまえん」の跡地約27ヘクタールは五つの区画に分けて整備が進められており、今回開園したのは「花のふれあいゾーン」「エントランス交流ゾーン」「川辺の散策ゾーン」の一部。平時は公園、災害時は避難所として使われる。

としまえん跡地のゾーン

 6月には隣接する「にぎわいアクティビティゾーン」に「ハリー・ポッター」を題材にした都市型テーマパークがオープンする。

 

なぜ練馬区の練馬城址が「としまえん」だったのか

 公園の名前から、ここには練馬城があったことが分かるが、ここは「としまえん」の跡地だ。東京都豊島区ではなく練馬区に「としまえん(豊島園)」があったのは、練馬城が室町時代にこの地を支配していた豪族、豊島氏の居城だったからだ。

 豊島園は、大正時代に練馬城址の土地を所有していた実業家の藤田好三郎(1881~1942)が、家族の静養地として購入したこの土地を庭園「練馬城址豊島園」として一般に開放したことが始まりだった。昭和26年(1951年)に西武鉄道が買収し、遊園地として整備されていく。

藤田好三郎(『財界お顔拝見』国立国会図書館蔵)

 練馬城は石神井川の南岸に位置しており、主郭跡の城山には平成元年(1989年)「としまえん」のウォータースライダー「ハイドロポリス」などが建設され、遺構は残っていない。南側には空堀があり、崖下の向山庭園の横を通る坂道が数少ない名残とみられる。

 こう書くと遊園地が城跡を壊したように思う人がいるかもしれない。地下遺構が保全されているかどうかは確かに心配だが、城自体は室町時代に破却され廃城となっている。壊したのは江戸城を造った太田おおた道灌どうかん(1432~86)だった。

豊島氏は武蔵南部の有力豪族だった

 としまえんの名前の由来になった豊島氏は、武蔵国(現在の東京都と神奈川、埼玉両県の大部分)の武士団「秩父党」につながる一派で、石神井川流域を拠点とした。三宝寺池のほとりに石神井城を築き、練馬城はその支城として鎌倉時代末期に豊島景村かげむら(生没年不明)が築城したと伝わる。一時期城主だった矢野将監という武将の名を取って「矢野屋敷」「矢野山城」とも呼ばれていたという。

今の石神井公園内にある石神井城址

 豊島氏は南北朝の争乱では南朝について戦ったという説もあったが、今では足利氏に与して北朝方にいたという説が有力のようだ。豊島氏は武蔵南部に大きな勢力を誇ったが、「長尾景春の乱」に巻き込まれ、扇谷上杉氏の家宰だった道灌に滅ぼされてしまう。

長尾景春の乱とは

 この乱は、関東管領山内上杉家の家宰(家老)を務めた長尾家で起きた内紛に端を発する。長尾四家のうち白井長尾家の家督を継いだ長尾景春(1443~1514)は、他の長尾家の妨害で家宰職を継げなかったことに不満を抱き、文明8年(1476年)に上杉家に反旗を翻した。景春には多くの関東の国人、地侍が味方につく。

 豊島氏も時の当主だった泰経(生没年不明)の妻が景春の妹だったことから景春に与したとされ,石神井城に泰経、練馬城に弟の泰明(?~1477)が入って、江戸城河越城の連携を遮断した。

太田道灌に滅ぼされ、城は破却

 道灌は文明9年(1477年)に練馬城を攻め、泰経・泰明は城を出て戦うが大敗を喫する(江古田・沼袋原の戦い)。泰明は討ち死にし、石神井城は落城して泰経は逃亡し、消息不明となった。豊島氏は事実上滅亡し、練馬城は道灌によって破却され、城山が残るだけとなった。

 

太田道灌(『肖像集1』国立弧kj会図書館蔵)

 江古田から沼袋にかけては、かつては敗れた豊島氏の軍勢が葬られた「豊島塚」があり、宅地開発すると人骨が出土したという。石神井城が陥落した際には、豊島家の姫が背後の石神井川に入水したと言う伝承があり、一帯は「嬢が淵」と呼ばれていた。今でも毎年5月に石神井城の城址である石神井公園で、豊島氏の栄華を偲ぶ「照姫てるひめまつり」が行われている。

豊島氏の守護神を祀った工藤祐宗

 練馬城址の北西にある春日神社は、泰経・泰明兄弟が厚く崇拝した豊島氏の守護神とされるが、創建したのは鎌倉時代御家人、工藤祐宗で、奥州攻めに向かう前に、一族の氏神を祀ったという。

工藤祐経(東京都立図書館蔵)

 祐宗といえば昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、お笑いトリオ「我が家」坪倉つぼくら由幸よしゆきさんが演じた、源頼朝の身代わりになって曽我兄弟に討たれた工藤祐経すけつね(?~1193)の孫である。ひょんなところで「ああ、あの人が」というつながりが出てくるのが歴史を調べる楽しみでもある。

 

 

books.rakuten.co.jp

ランキングに参加しています。お読みいただいた方、クリックしていただけると励みになります↓

にほんブログ村 歴史ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ
にほんブログ村


日本史ランキング