親日派の「積弊清算」に目を向ける韓国・文在寅の罪については、前のブログで具体例を挙げ、説明した。①抜擢人事で登用した側近や盟友に暴走させ、自らは不作為を装う②「反日は韓国の世論であり、韓国政府には止められない。反日を煽っているのはむしろ右傾化した日本だ」と責任を日本側に転嫁する③その過程で日韓の歴史を政治的に利用し、歪曲する――という手法は共通している。
今回は2018年10月に済州島の沖合で開かれた国際観艦式を取り上げたい。文政権の姿勢が最も典型的に表れていると思うからだ。しかも最近になって観艦式を取り仕切った文大統領の側近が韓国政府の意図を明らかにしている。
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この式典で韓国政府は「旗」を実に効果的に使っている。まず、観艦式に参加予定だった海上自衛隊の護衛艦に「自衛艦旗(旭日旗)」を掲げないよう求めた。
自衛隊旗は自衛隊法で掲揚が義務付けられ、国連海洋法条約でも所属する国を示す「外部標識」として掲揚しないと航行できない。結局、海上自衛隊は観艦式への参加を取りやめざるを得なかった。
「深層NEWS」に出演した小野寺五典前防衛相は「国際法上定められたことを普通にやっていて、自衛隊の艦船が行けなくなるのは残念だ」と憮然とした表情で語った。
韓国側は「日本だけではなく、観艦式に参加予定だった14か国すべてに大韓民国旗(太極旗)と自国の国旗以外は掲げないよう求めた」と説明したが、観艦式ではオーストラリア、カナダ、ロシアなど7か国の艦船が要請に反して海軍旗や軍艦旗を掲げたのに、韓国政府は黙認している。最初から旭日旗だけを排除するつもりだったことは明らかだ。
なぜ旭日旗が韓国で問題になるのか
日の丸から16条の光が出る旭日旗は大漁旗などでも使われ、もともと軍国主義の旗ではない。だが、今の自衛艦旗は旧海軍が明治22年(1889年)に定めた軍艦旗と全く同じデザインだ。
自衛隊の前身の保安庁警備隊の旗章は旭日旗ではなかったが、昭和29年(1954年)の防衛庁・自衛隊の発足に合わせ、隊員の声におされて“復活“した。
当時の自衛隊内にも「旧軍のイメージが強すぎる」との懸念の声があり、自衛隊は東京芸術大学に意見を聞いている。芸大の回答は「国旗との関連、単純鮮明な色彩、海の色との調和、士気の昂揚など、これ以上のものはない」というものだった。
図案の作成は画家の米内穂豊(1893〜1970)に依頼されたが、米内も「黄金分割による形状、日章の大きさ、位置光線の配合など実に素晴らしい」と旧軍艦旗をそのまま描き、「お気に召さなければ(図案作成を)辞退します。画家としての良心が許しません」と答えたという。
制定過程ではデザインや国際的な認知度といった旗本来の機能が重視されてはいるが、軍国主義的なメッセージの排除に十分意を砕いた、とまでは言えない。芸大に周辺国の国民感情を刺激しないか聞いても答えようがなかっただろうし、図案作成を依頼された米内は元海軍大将の米内光政(1880〜1948)の親戚で、旧海軍の理解者だった。
制定当時の自衛隊員には旧軍出身者が多く、旧海軍へのノスタルジーがあったことは否定できない。自衛隊旗にいい印象を持たない韓国の人々がいることまでおかしいとは言い切れないだろう。
なぜ中国と対応が異なるのか
だが、韓国政府は10年前と20年前の国際観艦式では旭日旗を掲げた自衛艦の参加を認めている。韓国側が旭日旗を意識するようになったのは、2000年代後半、サッカーの国際試合で日本側サポーターが使ってからとされる。日本の人々が「韓国はずっと問題にしていなかったのに、なぜ」という違和感を持つこともまた、おかしくはない。
しかも、同じく旭日旗にいい感情を持たないはずの中国は、2019年4月に青島で開かれた海軍創設70周年記念の観艦式で、旭日旗を掲揚した海自護衛艦の参加を認めている。中国からの報道によると、中国国内には「日本と戦ったアメリカが意に介さないのに、同じ戦勝国の中国が目くじらを立てる必要はない」という声もあるという。
韓国政府の関係者にどうしてこんな違いが出るのかと聞くと、おそらく「中国は言論統制で反発の声を抑えているだけだ。わが国は言論統制はしないから、韓国国民の反日感情を抑えることができないのだ」といった答えが返ってくるだろう。
だが、ならば韓国の対応は、文政権が日本との関係改善に動かないどころか、反日感情を煽っている証拠ではないか。
観艦式の帥字旗は李将軍の旗ではない
そのことを疑わせるのが、観艦式で掲げられた第2の旗だ。韓国側は文大統領が乗船した揚陸艦「日出峰」に「帥」の字を大書きした「帥字旗」を掲げた。
艦上での演説で文大統領はこの旗を「16世紀の文禄・慶長の役で豊臣秀吉(1537~98)の水軍と戦った抗日の英雄、李舜臣(1545〜98)を象徴する旗だ」と紹介している。
観艦式でこの出し物を見せるため、韓国政府は3つの無理を重ねている。観艦式の参加国に「太極旗と自国国旗以外は掲揚するな」と求めておきながら、ホスト国が自らそれ以外の旗を掲げている。
韓国海軍の決まりでは大統領が乗る艦船には「鳳凰旗」を掲げることになっているのに、前線の部隊長の旗に過ぎない帥字旗を掲げ、国家元首を部隊長に“降格”させている。何より問題なのは、観艦式で掲げられた帥字旗は李将軍が掲げた旗ではないということだ。
観艦式で掲げた帥字旗を李将軍の旗とした根拠について、韓国大統領府は「秀吉の出兵時に三道水軍統制使が掲げた旗で、李将軍は初代の三道水軍統制使だった」と説明している。だが、文禄・慶長の役で帥字旗を掲げたのは朝鮮側の援軍だった明軍とされ、李将軍が帥字旗を掲げたことを示す史料は見つかっていない。
帥字旗は対米戦争で掲げられた
百歩譲って李将軍が文禄・慶長の役で帥字旗を掲げたとしても、あのデザインの旗ではない。観艦式の帥字旗は、明治4年(1871年)に江華島周辺でアメリカの軍艦が朝鮮の村を攻撃した「辛未洋擾」の際に、朝鮮軍を率いて戦った魚在淵(1823〜71)が掲げた旗なのだ。
この時アメリカ艦隊は長崎に集結してから朝鮮に向かっているが、日本政府はこの戦いには関与していない。勝利した米艦隊(韓国では米艦隊は敗走したとされているが)は魚将軍の帥字旗を戦利品として持ち帰った。2007年には韓国に里帰りして多くの人が目にしているから、多くの人はこの旗は魚将軍の旗と知っているはずだ。
韓国では2014年に李将軍の活躍を描いた映画『バトル・オーシャン 海上決戦』が大ヒットしたが、その中でも魚将軍の帥字旗が李将軍の帥字旗として登場している。フィクションの映画で魚将軍のデザインを借用するのは仕方ないとしても、フィクションの旗を歴史的な由来がある旗として政府の公式行事で紹介するのは乱暴ではないか。
李将軍は確かに日本軍を苦しめたが…
ちなみに、李将軍が文禄・慶長の役を通じて日本水軍との海戦を何度も勝利に導き、日本軍を大いに苦しめたことは事実だ。
しかし、『バトル・オーシャン』が描く慶長2年(1597年)の鳴梁海戦が、韓国では李将軍が率いるわずか12隻の朝鮮水軍が藤堂高虎(1556〜1630)ら率いる330隻の日本水軍を打ち破った戦いとされているのは眉唾だ。日本では朝鮮水軍は日本水軍の先鋒に打撃を与えたものの、すぐに撤退したという見方が多い。参戦した日本水軍も130隻未満と、韓国側の見方よりずっと少ない。
独島艦にあがった最古の太極旗
国際観艦式で、韓国政府はもうひとつ旗を使った仕掛けをしている。「独島」の名がついた艦船のマストに、通常の太極旗ではなく「デニー太極旗」を掲揚したのだ。独島は日本固有の領土、竹島の韓国での呼称である。
デニー太極旗は、大韓帝国の外交顧問を務めたオーウェン・デニー(1838〜1900)が任務を終えてアメリカに帰国する際に高宗皇帝から下賜された大韓帝国の旗だ。
デニーは「朝鮮は厳然たる独立国だ」と主張し、子孫から韓国に寄贈されたこの旗は、韓国内にある最古の太極旗として国の重要文化財に指定されている。
大統領府はこの旗を「独島艦の名にふさわしく、大韓帝国時代から完全な独立を成し遂げるまでの長い時間、街で、戦場で、国民の胸の中でなびいていた歴史の旗」と説明している。
「独島(竹島)は韓国固有の領土だ」という主張を込めたのだろうが、韓国国内では「日本に屈服して独島を日本に献上した大韓帝国の旗を、なぜ独島艦に掲げたのか」という批判が出ているという。
明かされた旗掲揚の真意
ここまで書いてきたことは推測ではない。冒頭で述べたように、式典をプロデュースした大統領の側近、タク・ヒョンミン氏が今年5月、済州大学で「企画力と想像力」と題した講演で、3つの旗についての裏話を明かしている。
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タク氏によると、韓国政府は国際観艦式では自国旗と海軍旗を揚げるのが慣例であることも、かつて旭日旗を掲げた海自艦を釜山港に入港させた前例があることも最初から知っていた。
前例を踏まえれば、自国旗と太極旗以外は掲げるなという要請は無理があることも分かっていた。だがら、自衛隊が要請を無視して旭日旗を掲げて観艦式に参加してくることも覚悟していた。
観艦式では文大統領と参加艦が敬礼を交わす。自衛隊が強引に参加してくれば、文大統領は旭日旗に敬礼しなければならなくなる。タク氏によると、李将軍の旗(史実とは違うが)とデニー太極旗は、その時の対抗手段として用意したという。自衛隊に2つの旗に敬礼させれば、おあいこになるというわけだ。
タク氏は講演で「日本が旭日旗に固執するのは、軍国主義や第二次世界大戦の誇りを総体的に象徴するためだった。文大統領を旭日旗に敬礼させれば韓国の国内世論の非難を浴びることは避けられなかった」と述べている。
世論を受けてのやむを得ない判断だったという釈明は文政権の常套手段だが、ならば、日本が観艦式への参加を取りやめた時点で、2つの旗の掲揚を取りやめなかったのはなぜか。記事を見る限り、その疑問への説明はない。
タク氏は大統領選挙で文陣営を支え、文大統領の抜擢で大統領府儀典秘書官室先任行政官、大統領行事企画諮問委員の肩書で韓国政府の行事を一手に取り仕切っている。昨年の南北首脳会談を演出し、2017年に訪韓したアメリカのトランプ大統領の晩さん会で「独島エビ」を出したのも「お友達人事」で抜擢した彼である。
日本統治時代の朝鮮半島の歴史は直視し、反省し、謝罪しなければならないことは多い。根強い反日感情が簡単に消えないことも理解しなければならない。
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しかし、日韓両政府が知恵を出し合い、それを乗り越えてきた歴史まで否定してしまっては、前向きな未来志向の日韓関係など築けるわけがない。何よりも、歴史を政治的なパフォーマンスに利用するのは過去への冒涜だ。文大統領はそろそろそのことに気付くべきだ。
maruyomi.hatenablog.com
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