今につながる日本史+α

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読売新聞編集委員  丸山淳一

信長も認めた?蘭の効用 1鉢に込められた歴史と愛情

 2月14日から東京ドームで「世界らん展2020」が始まる。今年は30周年ということで特別展示もありますが、蘭栽培にも深くて長い歴史があります。今回は日本人4人、福羽逸人、大隈重信、島津忠重、岩崎俊彌の4人にスポットをあてて、その歴史の一端を調べてみた。

  読売新聞オンラインwebコラム本文

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大隈が育てた蘭「デンドロビウム

単なる金持ちの道楽ではない

 蘭栽培というと、どうしても欧米の価値観を丸呑みした金持ちの道楽というイメージがある。歴史の断面をみていくとそういう側面も確かにあるが、蘭を愛でた人は決してそれだけではなかった。むしろ高価な蘭が投機の対象として扱われることに強い危惧を抱いていたことが分かる。

 道楽というだけでは片づけられない苦労をしていることも分かる。背景には蘭栽培に対する強い信念があり、4人ともむしろ単なる道楽ではないということを身をもって示している。

 福羽は蘭栽培を花序や野菜の農業技術普及のてこにしようとしていたし、大隈は日本の文化の水準の高さと、和洋を分け隔てなく愛し、蘭を通じて自然と向き合おうとした。島津は西洋を超えた新たな価値観を見出し、岩崎は難しい栽培法にこだわって不屈の精神を蘭に込めた。各々の信念と情熱についてはコラム本文をお読みいただきたい。

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大隈が育てた蘭「オンシジウム

 信長が栽培許可?薬草だった和蘭

 江戸時代後期の文化文政期には空前の鉢植えブームが起き、大名や有識者が観賞用に栽培するようになったが、日本では蘭はそもそも薬草だった。薬草は各地で採取されていたが、特に伊吹山が薬草の山として有名だ。

 コラム本文に入らなかった話で、織田信長ポルトガル宣教師の陳情を受けて伊吹山に薬草園を開くのを許可したという話が『南蛮寺興廃記』という書物に出てくる。

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『南蛮寺興廃記』(国立国会図書館蔵)

 それによると、薬草園の設置を願い出たのはポルトガルの宣教師フランソワー・カブラルで、信長は伊吹山に50町歩の薬草園の開設を許可した。カブラルはヨーロッパからもってきた薬草約3000種類も植えたという。

 『南蛮寺興廃記』は江戸末期の書物で、信ぴょう性には疑問が付く。しかし、伊吹山にはキバナノレンリンソウ、イブキノエンドウ、イブキカモジクサなど、今でもここにしかない在来種とは思えない草花が咲いているから、広大な薬草園があった可能性は確かにある。

 ただ、これらの植物はヨーロッパ産ではなく、中国産とみられる。この話が本当なら、ポルトガルの宣教師は中国などで仕入れた薬草の株をヨーロッパ産という触れ込みで持ち込んだようだ。

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琵琶湖から伊吹山を望む

 残念ながら蘭がこの薬草園で栽培されていたかどうかはっきりしないため、コラム本文では取り上げなかったが、信長も蘭(葉を乾燥させて煎じていたようだ)を飲んでいたかも知れないと思うとロマンを感じる。

 貝原益軒は蘭を育てていない?

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貝原益軒国立国会図書館蔵)

 江戸時代の本草学者と言えば『養生訓』などで知られる貝原益軒(1630〜1714)が有名だ。蘭も育てていたとみられる記述も残している・

 だが、明治大学教授のの夏井高人さんの論稿によると、本人は中国の書物の引き写しをしただけで、栽培していない可能性もあるという。後世から見ると。先入観でものをみて本質を見誤ることも多い。蘭の栽培という極めて狭い範囲の歴史についても、掘りどころはいくらでもあることを改めて感じた。

洋蘭150年、波乱万丈の歴史

 イギリス商人のトーマス・グラバー(1838~1911)が洋蘭「シンビジウム・トラシアナム」を初めて日本に持ち込んだのは幕末か明治の初めとみられ、今年でほぼ150年になる。

 この間に洋蘭の栽培技術は格段に進歩し、蘭は金持ちしか育てられない「高嶺の花」ではなくなった。しかし、今でも育てるのは簡単ではない。

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グラバーが持ち込んだ日本最古の蘭「シンビジウム・トラシアナム」

 

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 手間がかかる子どもほど育てがいがある、ということかもしれない。人にも花にも歴史あり。美しく咲く蘭の1鉢1鉢に込められた歴史と育てる人の愛情を感じながら、東京ドームの美の競演を楽しみたい。

www.tokyo-dome.co.jp

 

 

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