「法務大臣は、……検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる」「但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみすることができる」
「法相の指揮権発動」に関する検察庁法14条の本文と但書きだ。個々の事件について法相は検察官を指揮することは許されないが、検事総長は指揮することができる。
公職選挙法違反で逮捕された河井克行前法相は、わずか2か月とはいえ、指揮権を発動できる立場にいた。検察にとっては「元上司」の前代未聞の逮捕を受けて、昭和29年(1954)の「造船疑獄」で法相の犬養健(1896〜1960)が発動した指揮権について考えてみた。
読売新聞オンラインwebコラム本文
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- 政治史の汚点「抜かずの宝刀」に
- 3人の「佐藤」が入り乱れ...
- 14条但書きの意味
- 法相と前法相は歴史を学ぶべき
政治史の汚点「抜かずの宝刀」に
指揮権によって当時与党・自由党の幹事長だった佐藤栄作(1901〜75)の逮捕が見送られたこの事件は、戦後政治史の一大汚点といわれた。指揮権発動はこれ以降も何度か検討されたが、「抜かずの宝刀」として封印されたままだ。
だが、渡邉文幸さんの『指揮権発動』(信山社)によると、実はこの時の指揮権発動は、東京地検特捜部の暴走を抑えきれなかった検察首脳も望んだことだったらしい。コラム本文では後の当事者の証言などからその経緯や理由を記したのでお読みいただきたい。
驚いたのは、佐藤幹事長の逮捕を暫時見送るよう指揮した指揮書の原案を書いたのが、指揮される側の検事総長、佐藤藤佐(1894〜1985)だったという証言があることだ。
松本清張(1909〜92)が記した「指揮書は犬養の直筆だった」という話は「完全な誤り」だったことになる。指揮書はタイプで清書され、政府だけでなく検察首脳が一字一句をチェックしたものだったという。
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