今につながる日本史+α

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読売新聞編集委員  丸山淳一

五輪、駅伝だけじゃない!金栗四三の偉大な足跡

 2019年のNHK大河ドラマ『いだてん』前半の主人公は金栗四三(1891〜1983)だ。金栗はストックホルム五輪の代表を決める予選会を世界新記録で走り、日本初の五輪選手となった。

 ストックホルムの本番では熱中症で倒れて行方不明になり、世界で最も遅いマラソン記録も持っている。ともかくドラマチックなエピソードには事欠かない。コラム本文ではその生涯を振り返った。

読売新聞オンラインコラム本文

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金栗は箱根を走っていなかった

 金栗といえば、箱根駅伝の最優秀選手に贈られる「金栗四三杯」の有名だが、恥ずかしながら箱根を走っているとばかり思っていた。金栗は箱根駅伝の考案者で箱根を走ってはいない。箱根駅伝が最初はアメリカ大陸横断駅伝の予選会として行われたことも知らなかった。

 私が金栗のことを知るようになったのは、熊本に赴任していた2年前。金栗は熊本が生んだ英雄だった。

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 九州新幹線新玉名駅頭には大河ドラマの放送開始を前に、金栗の銅像が立った(写真右)。五輪代表を決めた金栗の写真(玉名市提供)そのものの「やってやる」というポーズが、地元の期待を映している。

 金栗は女性スポーツ振興にも努めた。晩年は熊本県の教育委員長を務め、地域スポーツ振興にも尽力している。地元の玉名市には金栗の生家も保存されている。

  

 もうひとりの主役、嘉納治五郎

 ドラマ後半は昭和39年(1964年)東京大会を成功に導いた田畑政治(1898〜1984)が主役になるが、前、後半ともにもうひとりの主役は、役所広司さん演じる日本柔道の父、嘉納治五郎(1860〜1938)だろう。

 実は治五郎も熊本と深い縁がある。金栗と最初に出会ったのは東京だが、2人の熊本をめぐる縁には宮本武蔵小泉八雲も絡んで大変面白い。別の記事でこの因縁を詳しく書いているのでよろしければお読みいただきたい。

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 舌を巻く斬新な企画力

 アスリートとしての活躍以外に金栗はすごい、と思うのは、斬新な企画力だ。足袋の「ハリマヤ」の職人・黒坂辛作長距離走に適した足袋やランニングシューズの開発を進めたことも見逃せない。

 ハリマヤは戦後もランニングシューズの老舗だったが、ライバルメーカーの「オニヅカ(現アシックス)」におされ、バブル期に財テクに手を出して今は消滅している。この2社の争いは、TBSのドラマにもなった池井戸潤さんの小説『陸王』にも似ている。

 大河ドラマで黒坂を演じたピエール瀧さんは、ドラマ『陸王』ではマラソン足袋を作り上げた「こはぜや」と対決するスポーツ用品大手「アトランティス」の部長、つまり逆の立場を演じた。瀧さんは身から出た錆で途中降板してしまったが、起用にはNHKの遊び心もあったのではないか。

 作家・堂場瞬一さんと金栗や箱根駅伝の魅力について語った「深層NEWS」12月17日放送回の内容はこちらにまとめてある。

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箱根を走った選手は渡米していた!

 最後にドラマでも本文コラムでも触れられなかった余話をひとつ。箱根駅伝を予選としたアメリカ横断駅伝の計画は結局立ち消えになったが、実は第1回の箱根駅伝を走った選手のうち2人はアメリカ横断をあきらめきれず、単身で渡米していていたのだ。

 ただ、実際に大陸横断をすることはなかった。1人はその後、目標を学問に切り替えてアメリカの大学に進む。もうひとりはアメリカでギャングの抗争に巻き込まれ、不慮の死を遂げたそうだ。

 金栗の人生もドラマチックだが、その周辺にも別のドラマになりそうな人生を送った人がいた。やはりスポーツにはドラマが隠されている。

 

 

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