読売新聞編集委員の丸山淳一です。BS日テレ「深層NEWS」(月~金22:00〜23:00)に出演していました。
もともと日本史が好きだったのですが、深層NEWSにさまざまな専門家をお呼びしてお話を伺うようになって、「昔と今はつながっているんだなあ」と感じることがしばしばありました。
2018年から、読売新聞が運営するYOMIURI ONLINEの「深読みチャンネル」、2019年10月からは読売新聞オンラインwebコラム「今につながる日本史」に月2回程度、歴史を題材にコラムを書いています。新聞には掲載されません。
少しでも面白い情報が提供できればいいと思います。なお、コラムの内容は会社の意見を示すものではありません。
最初のコラムがこれです。
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舌を巻く司馬の徹底調査
日本人が最も好きな歴史上の偉人のひとりである坂本龍馬(1836〜67)が、歴史の教科書から消えるかもしれないという。高校や大学の先生でつくる「高大連携歴史教育研究会」 が、暗記中心の授業を改めるため、「歴史上の役割や意味が大きくない」用語を削ることを提案し、龍馬もクレオパトラ、武田信玄、上杉謙信、吉田松陰などとともに削減候補になったのだ。
研究会は、大学入試で暗記が 必須の「本文」からの削除を求めただけで、龍馬を教科書からすべて抹消すべきとは言っていない。私も龍馬については、教科書の本文に数行載せることにこだわる意味が あるのかなあ、と思う。龍馬が重要人物ではないという理由ではない。龍馬の魅力は数行の記述で語り尽くせるものではないからだ。教科書の用語はかえってスカスカくらいの方が探求心が刺激され、図書館で本を漁るきっかけになるのではないか。
「今の坂本龍馬像は司馬遼太郎(1923〜96)が小説『竜馬がゆく』で描いた人物像に引っ張られすぎている」と いう声をよく耳にする。だが、司馬遼太郎は歴史小説を書く前に東京・神田の古書店で関係する文書をまとめ買いしてトラックで運んだというから、何でも創作だと決めつけてはいけないだろう。
あけっぴろげの魅力
龍馬は、後世の脚色をそぎ落とし、生きざまを史料で直接確認することができる数少ない偉人でもある。140点以上の自筆の手紙が残っており、その多くに行動記録や心情まで、あけっぴろげに記している。
寺田屋で襲撃された事件の顛末を自ら詳細にルポしたり、新婚旅行の様子を挿絵も交えて報告したりしている。「日本を今一度せんたく(洗濯)いたし申候」という名言があるかと思えば、「運が悪い人は風呂から出ようとして、きんたまを風呂の縁にぶつけて死ぬこともあ る」という下ネタも出てくる。
龍馬の大ファンだという人気アイドルグループ「乃木坂 46 」の 山崎怜奈さんは読売新聞のインタビュー(2018年1月11付朝刊)で、「大河ドラマや歴史小説が大好きで、高校の教科書 は2冊買い、うち1冊には余白に登場人物の相関図などを書いて ドラマ感覚で学んだ」と語っている。山崎さんは龍馬の魅力につ いて「積極的に多くの人と交わる行動力、考えをしっかり持ちながら人の意見を受け入れる柔軟さにある」という。
「司馬の創作」は誤りだが……
『竜馬がゆく』が出るまで、龍馬は無名だった」という人がいるが、それは誤りだ。龍馬は戦前の国定教科書にもしっかり登場しているし、没後わずか16年後の明治16年(1883)に文筆家の坂崎紫瀾 (1853〜1913)が高知の新聞に連載した龍馬の一代記『汗血千里駒』が大人気になっている。
前のめりの死は創作
最近は幕末史の研究も進み、知名度が低かった志士たちの業績が知られるようになって、歴史上の重みは相対化されているという。でもやはり、私は龍馬はすごいと思う。
コラムの中にも書いた通り、アニメ 『巨人の星』には「斬られてから近くの川に飛び込んで、前のめりに虚空をつかんで死んでいく」死に様が描かれているが、これは司馬でもなく、梶原一騎の創作だ。50代以上の世代は子どものころ『巨人の星』をほぼ全員が見ているので「龍馬はどぶの中で前のめりに死んだ」と誤解している人が多い。誤解している世代に偏りがあるというのも面白い。
龍馬暗殺の模様は『西郷どん』でも描かれた。史実では、龍馬は刀で脳天を割られてほぼ即死だったというから、小栗旬さんが演じる龍馬が刀身で自らの顔を映したのはドラマ上の演出ということになる。私はなかなかいいシーンだったと思う。
時代考証の磯田道史さんは、龍馬暗殺については見廻り組の仕業とみており、無理に薩摩を犯人にしなかった(その前の展開から、ちょっと危惧していた)のもいい展開だった。
龍馬が西郷らと会談したとされる薩摩藩邸
maruyomi.hatenablog.com
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