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読売新聞編集委員  丸山淳一

『どうする家康』の家康像、どうする?

でっぷり太った典型的な徳川家康

 戦国の世を終わらせた徳川家康(1542~1616)を松本潤さんが演じるNHK大河ドラマ『どうする家康』の放送が始まった。前作の『鎌倉殿の13人』は毎週誰かが誅殺されることから「死ぬどんどん」の異名がついたが、作者の古沢良太さんは、月曜日に会社に行く励みになるようなドラマを目指しているようだ。

 もちろん松本さんをはじめとする俳優陣の演技にも注目だが、『ALWAYS 三丁目の夕日』『コンフィデンスマンJP』やなどを手掛けた当代きってのヒットメーカー、古沢さんが描く家康像に関心が集まる。いったい「どうする」のか、コラムで推理してみた。

読売新聞オンラインのコラム本文

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大河ドラマの最多出場者

 家康が単独で大河ドラマの主役になるのは昭和58年(1983年)の『徳川家康』以来40年ぶりだが、62作目となる大河ドラマで、家康は実に27作に登場している。

「戦国の三英傑」でも織田信長(1534~82)と豊臣秀吉(1537~98)(ともに20作)を大きく上回り、「今さら大河ドラマでやるのがちょっと恥ずかしいくらいの超ベタな偉人」(ドラマ作者の古沢良太さんの番組ホームページでのコメント)だ。

 27作の中では松本さんのような優男やさおとこタイプの家康も何人か登場しているが、やはり大河ドラマの家康像のスタンダードは『独眼竜政宗』『葵 徳川三代』で津川雅彦が演じた「タヌキおやじ」だろう。古沢さんはこの典型的な家康像を壊そうとしているはずだ。

「タヌキおやじ」否定する新説が続々と

 その狙いは決して無理筋ではない。歴史研究の分野でも、多くの人が抱くこれまでの家康像を否定する研究成果が続々と発表されている。

 例えば、今川氏の家康に対する扱いだ。家康は最初は尾張(現在の愛知県)を支配していた織田氏、ついで駿河(現在の静岡県)を支配していた今川氏の人質となったが、人質時代の家康はこれまで、今川氏の厳しい監視下で抑圧された艱難辛苦の日々を送っていたかのように描かれることが多かった。

信長(左)の前で人質の辛さを涙する家康(『織田信長 歴史小説安土』国立国会図書館蔵)

 しかし、最新の研究では、家康(当時は松平元康)は今川氏の 庇護下でも三河岡崎(愛知県岡崎市)を支配する松平氏の当主として扱われていたことがわかっている。駿府(現在の静岡市)に留め置かれたのは、幼くして父を亡くしたからで、岡崎城に城代を置いたのは家康が成人するまでの時限措置だった。

 ドラマの初回で家康が駿河で何不自由なく暮らし、顔も覚えていない家臣が家康に忠節を尽くしていたが、これは史実に沿った描写といえる。家康を本当に人質として扱っていたのは織田氏の方だった。信長が家康を「白兎」と呼んでいたというのはフィクションだろうが、家康は信長を兄のように慕っていたという従来の描き方は後世の脚色で、実は信長を恐れていたというのもうなずける。

桶狭間で討ち死にSる今川義元(中央)(『大日本歴史錦絵』国立国会図書館蔵)

桶狭間は信長の奇襲戦ではなかった

 桶狭間の合戦についても、信長が 迂回うかいして奇襲したという従来の見方は否定されつつあり、織田軍は今川軍の本隊と正面から衝突したという見方が有力だ。ドラマのなかで偵察(物見)に出た兵士は、織田軍は奇襲ではなく「待ち伏せて今川軍を襲った」と報告している。岡部大さんが演じる平岩親吉ちかよし(1542~1611)が「遠くで聞こえたような」とつぶやいた鉄砲の音は、織田軍が発した今川軍の敗因を象徴する銃声だったことになる。

 家康は生涯で10の危機に直面したとされ、桶狭間の合戦での義元討ち死にはその最初の危機だった。ドラマが描くように家康は大高城から駿河に帰るか、岡崎に向かうかの選択を迫られ、岡崎にある松平氏の菩提ぼだい 寺、大樹寺に入る。寺伝によると、家康はそこを敵に囲まれ、いったんは先祖の墓前で自害することを考えたという。

大草松平家の離反は本当はもう少し先

 大樹寺での戦闘はなかったという説や、攻めたのは織田軍という説もある。ドラマでは角田晃広さんが演じる大草松平家の当主・松平昌久(生没年不明)が攻めていたが、昌久が家康に反逆するのは桶狭間の合戦の3年後に起きる「家康3大危機」のひとつ、三河(現在の愛知県)の一向一揆の時。大樹寺を攻めたというのはドラマ上の創作だ。

 岡崎に行くか、駿河に行くかで家臣がまとまらなかったというのも史実かどうかはわからないが、「三河武士は強く、主君に忠実」というのは後世の虚飾で、この後も家康は何度も敗戦し、何人もの家臣に離反されている。

 ドラマは今後、家康が「正解のない決断を『どうする?』と迫られることの連続」(古沢さんのコメント)となるだろう。10の危機をどう乗り越え、タヌキおやじになっていくのか。今後も節目の「どうする?」を紹介していきたい。

 

 

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