今につながる日本史+α

今につながる日本史+α

読売新聞編集委員  丸山淳一

南海トラフ地震と津波はいつ来るのか 古文書が示す4法則

f:id:maru4049:20200125125741j:plain

 政府の地震調査委員会が、南海トラフ地震に伴い今後30年以内に津波に襲われる確率を初めて地域ごとに算出し、その地図を公表した。

 静岡や高知、和歌山など10都県71市区町村に高さ3メートル以上の津波が26%以上の「非常に高い」確率で押し寄せるという。

 高知沿岸すべてに3m以上の津波

 地震調査委は南海トラフ地震に伴う津波を約35万パターンも想定したうえで、福島〜鹿児島県の沿岸部で3m以上、5m以上、10m以上の津波が襲う確率をそれぞれ出した。

 26%以上の確率で3m以上の津波が来る、とされたのは東京の島嶼とうしょ部~宮崎県の範囲で、高知県の沿岸は全市町村が含まれる。5メートル以上の津波は7都県29市町村だった。

 「30年以内に70~80%の確率で起きる」とされる南海トラフ地震については、すでに事前避難の指針などが示されている。 www.news24.jp

 地震発生の可能性が高まって「臨時情報」が出た際は、被災していない地域の住民も1週間程度避難するのが望ましいとされ、市町村は指針を踏まえた具体的な防災対応策を2020年度までに整えることが求められている。

 今回の津波確率は、対応策づくりの参考になる。地震本部の報告書にはもうひとつ、重要な図表がある。南海トラフ地震はいつ来るのかを推計する上で不可欠な、過去の記録を精査した結果だ。

 

f:id:maru4049:20200125130845j:plain

南海トラフ地震の歴史。「203」などの数字は地震の空白期間(単位は年)を示す

「半割れ」連動の繰り返し

 過去の記録をみると、南海トラフでは100~150年間隔で大きな地震が起きている。まず震源域の半分で大地震が起きる、いわゆる「半割れ」から間をおかずに、残り半分でも連動地震が起きる。

 上の図の684年の白鳳(天武)地震については、確実な記録などは西側しかないが、最近の研究で、この前後に震源域東側でも地震があったことが確認された。静岡県磐田市で見つかった津波堆積物の地層の中にあった植物の断片を放射性炭素年代測定したところ、7世紀末のものと分かったからだ。

 宝永地震以降の記録を見ると、「半割れ」連動の経緯はさらにはっきりする。

 嘉永7年(1854)にはトラフ震源域の東側部分で安政東海地震が起き、その32時間後に西側で安政南海地震が発生した。昭和19年(1944)に起きた昭和東南海地震でも、2年後に昭和南地震が起きている。いずれもマグニチュード(M)8前後の大地震で、津波などで1000人以上の死者が出た。

f:id:maru4049:20200125131200j:plain

 ただ、上の図をよくみると、安政東海地震と昭和東南海地震の間が90年と、他の空白期間より短いことが分かる。一方で東の東半分では、安政以来166年も大きな地震が起きていない。

 少し前まではこれが「近く東海地震が起きる」根拠とされてきた。しかし、今では「安政地震は東の東半分でしか起きておらず、その揺れ残りで起きたのが昭和東南海地震ではないか。だから東側の西半分だけ空白期間が短かったのではないか」という見方が有力になりつつある。

 だとすれば西側の地震を誘発するような東側の地震は、まだ当分は起きないという見方もできる。

 歴史学者磯田道史さんは『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)のなかで、南海トラフ地震

①約100年の周期で発生する

②同時もしくは数年内に、遠州灘から四国沖まで連動するのが普通

③古文書の記録では90年より短い周期で2回起きたことは確認できない

④記録がはっきりしている南北朝時代以降で150年の間に起きなかったことは1度もない

という4法則があると記している。

 だが、安政地震の見方によって空位期間が変わるように、見方によっては法則が変わることもあるわけだ。

西→東のパターンもあり得る

 昭和南地震から70年余が経過している。古文書の4法則にしたがえば、あと30年は大丈夫とみることもできるが、そろそろ危ないと考えて準備を進めたおくのにこしたことはない。地震学者の多くが「あす起きてもおかしくない」と警告している。

 政府はこれまで古文書などでは確認されていない「西→東連動」(西側半分で先に地震が起き、東側半分が誘発されるケース)も、今後起こることは否定できないとして、警戒の対象に含めた。その上で、「半割れ」したときには、少なくとも1週間程度は、残りの半分の地域でも避難すべき、としている。

 M8級以下の地震でも、気象庁が速やかに情報発信することとし、それを受けて市町村が迅速に避難指示を出すよう求めている。現在の災害対策基本法では、実際に避難指示などを出すのは国でも都道府県でもなく、市町村だ。

 南海トラフ巨大地震の想定範囲は29都府県707市町村にものぼるが、半分で巨大地震が起きるのは、M8級で十数回のうち1回程度、M7級では数百回に1回程度しかないとみられる。

 市町村は空振りを覚悟して、避難指示などの発令しなければならない。事前避難の勧告が発令されただけで経済は大混乱し、予想外の混乱が起きるだろう。内閣府の調査に対し、「自ら避難の判断はできない」と答えた市町村が多かったのも理解できる。

 事前避難には空振りがつきものなことを住民にも周知すべきだが、住民も「地震が来なかったのだからよし」と我慢する覚悟を求められている。

地震津波についてはこちらでも書いているのでよろしければお読みいただきたい。 maruyomi.hatenablog.com

 今回の南海トラフ地震津波確率については、地震本部ホームページに詳細がある。

www.jishin.go.jp

 

maruyomi.hatenablog.com

ランキングに参加しています。お読みいただいた方、クリックしていただけると励みになります↓

にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ
にほんブログ村


日本史ランキング


人気ブログランキング