今につながる日本史+α

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読売新聞編集委員  丸山淳一

「転落の歴史」からコロナ対策を考える

  2021年は緊急事態宣言の再発令から始まった。今年もコロナとの戦いが最大の懸案になることは間違いない。読売新聞オンラインのコラム本文は、元通産官僚で衆議院議員齋藤健さんのインタビューだ。

 齋藤さんは、日露戦争の勝利から第2次世界大戦に惨敗するまでの旧日本軍の変容について克明に調べ、『転落の歴史に何を見るか』という本を出版している。

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齋藤氏(右)と筆者

 旧通産省を取材していた私とは30年近く前から斎藤さんを知っている。現在の政府のコロナ対応について、旧日本軍の失敗から学ぶところが多い。インタビューの内容は、こちらをお読みいただきたい。

読売新聞オンラインのコラム本文

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 失敗の本質は「十七条憲法」にある?

 齋藤さんはインタビューの中で、奉天会戦日本海海戦ノモンハン事件真珠湾攻撃などを振り返りながら旧日本軍の問題点を探り、根源は聖徳太子が制定したとされる十七条憲法にあるという説を展開する。十七条憲法が「和をもって貴しとなす」から始まるのは有名だが、条文の並びが持つ意味はあまり考えたことがなかった。

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第一条は「和」を尊ぶ十七条憲法国立国会図書館蔵)

 和を重視すれば、みんなの意見を重視することにつながる。争いを避けるにはいい再組だが、あくまでこれは平時の話。戦時や非常時にまわりの意見を聞きすぎると、戦略目的があいまいになり、さまざまな弊害が出てくる。

 「あの人の意見も入れなければ」「あの人のことも配慮しなければ」と言っていると戦略目的がぼけていき、対策も逐次投入になってしまう。

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真珠湾攻撃で沈没する米戦艦アリゾナ(米海軍歴史センター所蔵)

 例えば真珠湾攻撃の戦略目的は、米戦艦を沈めることもさることながら、燃料庫を徹底的に破壊することだったのに、それを十分にやらずに作戦を終えてしまった。このことは、後に致命傷になった。

和は組織を緩め、前例踏襲をはびこらせる

 和を重視する仲間同士の結びつきはセクショナリズムにつながり、縦割り割拠になることで、組織の中心が消えてしまう。「和」を重視しすぎて信賞必罰ができなくなったことで人事が緩み、能力主義抜擢ばってきも影を潜めてしまう。

 日本の組織は、できた当初は抜擢なども行い、発想も柔軟なのだが、30年もたつと、「誰それが言っているから」とか「前例はこうだから」という理由で重要な決断がなされてしまいがちになる。

 問題点を突き詰めて戦略を立て直そうとすれば、組織の変革が必要になり、内部に摩擦や対立が生まれる。とりあえず日常が回っていれば、前例通りにしていればいいではないか――。山本七平が言う「日常の自転」が始まるというのだ。「それはおかしい」という個人、そして異論を許容する組織を守ることが肝になる、と斎藤さんは言う。 

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コロナとの戦い、過去の教訓をどう生かすか

 インタビューの最後は、「新型コロナと戦いに過去の失敗の教訓をどう生かすか」。斎藤さんは、「ゼネラリストの政治家がスペシャリストの専門家の言うことを踏まえて、大局的見地からハンドリングできるかどうかが大切だ」と強調する。

 コロナとの戦いの戦略目的は、感染の拡大を止め、医療崩壊を防ぐこと。経済への影響をできるだけ少なくすることは、あくまで配慮事項なのだが、様々な意見を聞いているしすぎると、配慮事項がどんどん膨らんで、戦略目的があいまいになり、政策の逐次投入にも陥りかねない。

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 「かつて見た光景が浮かぶ。これではまずいと思った時には戦うつもり。政治家は歴史を学び、それを教訓に動くことが仕事ですから」と斉藤さん。知らないことも多く、勉強になった。

 

 

 

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