今につながる日本史+α

今につながる日本史+α

読売新聞編集委員  丸山淳一

蘭奢待に並ぶ正倉院の名香 全浅香とは

奈良市の奈良国立博物館で、74回目となる正倉院展が開かれた。東大寺に献納された約9000件といわれる収蔵品から、今年は59件が出陳された。目玉のひとつが天下の名香木といわれる「 全浅香ぜんせんこう 」。正倉院蔵の香木と言えば「 蘭奢待らんじゃたい 」…

鉄道150年 大隈重信「一生の不覚」のその後

新橋―横浜間に日本で初めて鉄道が走ってから150年になる。文明開化の象徴にもなった鉄道建設に貢献したのは大隈重信(1838~1922)、伊藤博文(1841~1909)、井上勝まさる(1843~1910)の3人だ。 若き日の大隈(国立国会図書館蔵) 日本の鉄道史には、ペリ…

安倍元首相国葬で菅氏の弔辞に引用された『山県有朋』

安倍元首相の国葬(国葬儀)で多くの人の心を打ったのは、菅義偉前首相の弔辞だった。弔辞を読み終えた菅氏に対しては、自然に拍手がわいた。葬儀会場で弔辞に拍手がわくのは異例のことだという。 安倍元首相の国葬儀(首相官邸ホームページより) 衆議院第1…

「奇想の画家」伊藤若冲の超人的な集中力と熱意

東京・上野の東京芸術大学大学美術館で開催された特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」にあわせて、後期展示の目玉だった 伊藤いとう若冲じゃくちゅう (1716~1800)の『 動植どうしょく綵絵さいえ 』を取り上げた。 読売新聞オンラインのコラム…

畠山重忠と同じ「死ぬどんどん」の犠牲者、稲毛重成

毎回のように誰かが権力闘争の犠牲となり、いわれなき死を遂げる。SNSでは朝の連続テレビ小説をもじって「死ぬどんどん」の異名がついた『鎌倉殿の13人』。9月18日放送回では、鎌倉幕府の公式記録『吾妻鏡』が「譜代勇士、弓馬達者、容儀神妙」とほめあげた…

関東大震災から99年 知るべき教訓とは 

10万人を超える犠牲者を出した大正12年(1923年)9月1日の関東大震災から99年。この震災では特に隅田川東側の江東地区、当時の本所区(現在の墨田区南部)と深川区(江東区北西部)の被害が大きく、両区での焼死者はあわせて5万人を超えた。このうち3万8…

終戦77年の夏に振り返る81年前の「総力戦研究所」の結論

終戦から77年の8月15日が過ぎたが、今回は81年前の夏、昭和16年(1941年)夏の話から始めたい。当代一流の経済学者を集め、主計中佐の秋丸次朗(1898~1992)が率いた陸軍省戦争経済研究班(通称「秋丸機関」)が、この夏に陸軍上層部に「日米の国力差は20…

いたずらは許されないお盆最後「京都五山の送り火」の伝統とは

8月16日夜、「京都五山送り火」が行われる。お盆(=盂蘭盆会うらぼんえ)」の最終日に精霊を送り出す仏教行事で、祖霊(お精霊さん)を再び浄土(死後の世界)に送る火を灯す。過去2年は新型コロナ感染対策として規模を縮小して実施したが、今年は3年ぶりにすべ…

コロナ禍3年目の夏に考える「お盆」の意義

新型コロナウイルスの感染拡大「第7波」が勢いを増す中で、日本最大の民族大移動の時期「お盆」の週がやって来た。今年は行動制限のない久しぶりの夏。東北では大雨被害が心配されたが、3年ぶりの「三大祭り」が始まった。 読売新聞オンラインのコラム本文…

加来耕三さん、中西悠理さんと対談 歴史を学ぶ醍醐味とは

読売新聞本紙の広告企画で、歴史教養番組「偉人・素顔の履歴書」(BS11、毎週土曜日午後8時放送)に出演中の歴史家、加来耕三さんと番組MCの中西悠理さんと対談してみませんか、と誘われて、ふたつ返事で引き受けた。番組を見ていただけでなく、加来…

13人が出そろった直後に13人ではなくなった「鎌倉殿の13人」 

北条義時が主人公のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、大泉洋さんが演じた源頼朝(1147~99)が退場し、後半戦に入った。タイトルの「鎌倉殿」は鎌倉幕府の将軍で、「13人」は頼朝の死後、若くして後継者となった2代将軍の源頼家(1182~1204)を支えた…

安倍元首相の殺害を過去6人の宰相殺害から考える

奈良県で参院選の街頭演説中だった安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。憲政史上最長の在任記録を持ち、首相退任後も自民党最大派閥の領袖りょうしゅうだった政界の中心人物が、選挙期間中に銃殺された衝撃は大きい。 銃撃したのは奈良市に住む無職、山上徹也容疑…

選挙の後に不要論…参議院はなぜ必要とされたのか

参議院議員選挙は、当初の予想通り与党の大勝という結果となった。選挙戦の終盤戦で安倍元首相が狙撃され死亡するという予期せぬ事件が起きたが、選挙結果には大きな影響を与えなかったようだ。 当選した議員の顔ぶれを見て、SNSには「参議院不要論」を説く…

名将というより優秀な経済官僚だった河井継之助

コロナ禍の影響などで公開が3度も延期された映画『峠 最後のサムライ』が公開された。原作は司馬遼太郎(1923~96)の同名小説で、主人公は役所広司さんが演じる越後(新潟県)長岡藩の家老、河井継之助(1827~68)。戊辰ぼしん 戦争のなかでも最大の激戦…

後白河法皇は「日本一の大天狗」ではなかった?

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の6月5日放送回「義時の生きる道」で、西田敏行さんが演じた後白河法皇(1127~92)が天寿を全うした。ドラマでは通説に従って大泉洋さんが演じる源頼朝(1147~99)が、法皇を「日本一の 大天狗おおてんぐ」と呼んだエピ…

映画『大河への道』が描かなかった真の主人公の悲劇

映画『大河への道』が封切られた。原作は立川志の輔さんの創作落語。郷土の偉人、伊能忠敬(1745~1818)を主人公にした大河ドラマの実現に奮闘する千葉県香取市役所の職員と、忠敬の日本地図を巡る秘話を、現代と江戸時代とを行き来しながら描く。映画をも…

ロシアのウクライナ侵略の「終わらせ方」と大坂の陣

ロシアのウクライナ侵攻は、出口の見えない戦いになりつつある。ロシアの軍事・安全保障問題に詳しい東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠さんはテレビ番組で、ウクライナが非武装化に応じれば、「大坂夏の陣になる」と解説した。防衛省防衛研…

「鎌倉殿の13人」上総広常はなぜ頼朝に殺されたのか

上総広常(国立国会図書館蔵) NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の4月17日放送回「足固めの儀式」で、佐藤浩市さんが演じた坂東武者、 上総広常かずさひろつね (?~1184)が、大泉洋さん演じる源頼朝(1147~99)によって粛清された。ドラマでは、頼朝の…

国宝指定の熊本・通潤橋 官民協力で造った日本一の石橋

完全復旧した通潤橋 熊本県山都町やまとちょうにある日本最大級の水路石橋、通潤橋つうじゅんきょうが“国宝に指定される見通しとなった。 通潤橋は2016年の熊本地震で通水管が破損し、2年後の豪雨で石垣の一部が崩落し、20年7月に復旧した。安全上の問題か…

牛に引かれて…善光寺詣に隠された史実はあるか

長野市の善光寺で4月3日から 御開帳ごかいちょう が始まった。数えで7年に1度の御開帳は本来なら2021年春に行われるはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から1年延期されていた。善光寺というお寺には謎が多い。創建時から説き起こし、…

「光秀は本能寺にいなかった」新説の講演を聞く

天正10年(1582年)6月2日、明智光秀(?~1582)が主君の織田信長(1534~82)を討った本能寺の変について、金沢市立玉川図書館近世史料館が所蔵する『 乙夜之書物いつやのかきもの』という書物から、これまでの常識を覆す記述が見つかった。この記述…

貨幣改鋳でデフレ脱却 天才官僚・荻原重秀が悪人とされたワケ

ウクライナに侵攻したロシアに対する経済・金融制裁を受けて、ロシア通貨ルーブルが急落し、一方で 金きんの国際価格が高騰している。これまで人類が長い歴史のなかで掘り出した金はオリンピックプール3杯分しかないという。希少だからこそ価値があり、日本…

飼い猫1300年の歴史は朝廷内の「政争」から始まった

2月22日は「ニャンニャンニャン」の語呂合わせで「猫の日」。今年は西暦とあわせて6個も「2」が並ぶ特別な年だ。ペットフードの業界団体「ペットフード協会」によると、2021年に日本で飼われている猫は推計894.6万頭にのぼり、犬の飼育頭数(710.6万頭)…

海外火山大噴火、対応が分かれた2人の将軍

南太平洋の島国、トンガの海底火山で2022年1月15日、大規模な噴火があった。噴煙は上空約20キロと成層圏にまで達し、火山灰は最大で半径400キロにわたって広がったとみられる。噴出物の量から噴火の規模を示す「火山爆発指数」(VEI)は5か6で、世界で…

『青天を衝け』時代考証者が語る 渋沢栄一と維新功労者の実像

主人公の渋沢栄一を吉沢亮さんが演じたNHK大河ドラマ「青天を衝つけ」が、12月26日放送の第41話で最終回を迎える。500社もの会社を設立し、600にのぼる公共事業を進めた渋沢は「近代日本資本主義の父」として知られていたが、天保から昭和まで11の年号を…

本能寺では囲碁対局…本因坊算砂が拓いた将棋の歴史

第34期竜王戦七番勝負で藤井聡太三冠が4連勝し、竜王のタイトルを奪取した。史上最年少の19歳3か月で四冠を達成した藤井新竜王は、棋士の序列を示す席次でも1位となった。 日本の将棋の歴史に刻まれる出来事を機に、日本の将棋1000年の歴史を振り返った。…

願望、幻想をのみ込む魅力…天下取りの名刀「義元左文字」

刀剣ブームが続いている。熊本のテレビ局に赴任していた時、阿蘇神社に伝わる幻の宝刀「 蛍丸ほたるまる」の復元プロジェクトを取材して、そのすごい人気に驚いた。オンラインゲーム『刀剣乱舞』に登場する刀を擬人化したキャラクターのファンになり、刀その…

もう少し時間があれば…明治の偉人に絶賛された小栗忠順

NHK大河ドラマ「青天を衝つけ」で、もう少し長く見たかった人物がいる。東征軍(後の新政府軍)との徹底抗戦を唱えて 罷免ひめんされ、領地だった上州権田村(現在の群馬県高崎市)で理不尽に殺害された 小栗おぐり上野介こうずけのすけ忠順ただまさ(1827~…

この世をば…「望月の歌」を巡る新解釈とは

「平安」時代という名前や「貴族の世の中」という括くくり」が影響しているのかもしれない。ちょうど1000年前、平安時代の貴族は優雅で安定した時代を 謳歌おうか していた、というのが多くの人の印象だろう。 この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる こ…

ジャパンブルーはサムライブルーか

2021年に発売されたサッカー日本代表 100周年アニバーサリーユニフォーム 大河ドラマ「青天を衝け」で藍染めが出てくることから、ジャパンブルーの歴史を探ってみた。 読売新聞オンラインのコラム本文 武士の「勝ち色」由来説には異説も サッカー日本代表の…